ペストやスペインかぜなど、人類の歴史の中で世界各地で蔓延した感染症まとめ

歴史の授業で習ったペストやスペインかぜ。様々な感染症が人類を脅かしてきたことは知っていたものの、近代化した現代においては世界的に流行する病気はどこか“過去のもの”や“遠い場所で流行るもの”といった感覚で生活していた方も多いのではないでしょうか。

実際に、病原体が解明され対処方法が確立されていくにつれ、感染症による死者は激減したそうです。しかし、近年ではエボラウイルス病(エボラ出血熱)やSARS、MERSなどの以前は認知されていなかった新興感染症の流行が繰り返されています。

そんな中、新型コロナウイルスによる感染症が今現在も世界中で流行しており、深刻な脅威となっています。



多くの命を奪っている感染症。今回のCOVID-19に限らず、人類は今なお世界各地で様々な感染症とたたかっています。改めて感染症について知るために、今までに世界各地で蔓延した感染症にはどのようなものがあるのか、一部ではありますが調べてまとめてみました。

目次

痘そう(天然痘)

病原体 天然痘ウイルス
感染経路 ヒトからヒトへの飛沫感染、接触感染、まれに空気感染
治療法 特になく、対症療法が中心
予防法 ワクチン接種(種痘)※根絶状態のため中止されている
経緯 正確な起源は不明。
紀元前 エジプトのミイラに天然痘に感染した痕が確認されている
6世紀 日本で流行、以降複数回の流行あり
1956年以降 国内での発生なし
1976年 国内でのワクチン接種(種痘)中止
1977年 ソマリアでの患者を最後に、現在まで全世界での発生なし
1980年 WHOが天然痘の世界根絶宣言
※人類が根絶に成功した唯一の感染症。ただし、生物兵器として使用される可能性のある病原体に位置付けられている
情報元 国立感染症研究所
関西空港検疫所
東京都感染症情報センター
バイオテロ対応ホームページ厚生労働省研究班
米国疾病予防管理センター(CDC)

ペスト、人畜共通感染症(動物由来感染症)

病原体 ペスト菌(細菌)
感染経路 ・腺ペスト、敗血症型ペスト―菌保有のげっ歯類(ネズミなど)からノミを介して感染、感染した小動物、感染力のある体液や細菌が付着したものからの接触感染
・肺ペスト―ヒトからヒト、動物からヒトへの飛沫感染、腺ペスト、敗血症型ペストからの移行
治療法 早期の抗菌薬投与
予防法 現在国内で接種可能なワクチンなし。菌を保有するネズミやノミの駆除、感染が確認されている地域でネズミなどとの接触を避けるなどの予防行動、患者やげっ歯類と直接接触があった場合には抗菌薬の予防投与
経緯 540年頃から 東ローマ帝国を中心に流行
14世紀 ヨーロッパを中心に大流行し、黒死病と呼ばれた
1899年 日本に流入、以降断続的に流行、国内での感染例2,905人、うち2,402人の死亡が報告された
1927年以降 国内での感染は確認されていない
21世紀以降 主にアジア、アメリカ、アフリカで発生
2010-2015 世界で3,248人の症例、うち548人の死亡が報告された
2017年末時点での三大発生地はマダガスカル、コンゴ民主共和国、ペルー
情報元 厚生労働省
国立感染症研究所
厚生労働省検疫所FORTH
東京都感染症情報センター
バイオテロ対応ホームページ厚生労働省研究班

スペインかぜ

病原体 インフルエンザウイルス(A/H1N1亜型)
経緯 1918年3月 アメリカとヨーロッパでパンデミック第1波が始まる
1918年秋 第2波がフランス、シエラレオネ、アメリカで同時に始まる、致死率は第一波の10倍になり、死亡者の99%は65歳以下、そのうち15~35歳の若年層が最も多くの割合を占めた。
1918年8月 日本でも大流行(国内第1波)
1919年始め 第3波が発生
1919年9月 国内第2波 1波より患者数は激減するも致死率は著しく上昇、国内で2,500万人が感染、推定死者数は38万人。当時はワクチンも抗生物質もなかっため、このスペインかぜによって世界の人口の1/3が感染し、約5,000万人が死亡したと言われている。死亡者の多さと致死率の高さには細菌性肺炎との合併も影響を与えたとされている。
※1957年にアジアかぜが発生するまで、季節性インフルエンザとして流行を繰り返した
情報元 内閣官房
厚生労働白書
国立感染症研究所
米国疾病予防管理センター
WHO

アジアかぜ

病原体 インフルエンザウイルス(A/H2N2亜型)
経緯 1957年2月 中国で感染が広がり始める
同年4月 香港に到達
同年5月 日本に到達
同年9月 国内での第2波
同年11月 国内でワクチン使用開始
罹患率は小中学校年齢が最も多く、死亡者は幼少児と高齢者に多かった。抗生物質が使用されるようになっていたため、死者数の減少に大きな影響を与えたとされる。一方インフルエンザワクチンは実用化され学童への集団接種がされていたものの、その当時H2N2は新型だったため効果がなかった。アジア一帯、アメリカ、ヨーロッパなど多くの国で流行し、推定死者数は全世界で約110万人、超過死亡数は200万人以上と推定されている。
※超過死亡:予測される平均的な死者数と比較して、インフルエンザの流行によってどの程度死者が増加したかを示す推定値)
情報元 内閣官房
厚生労働白書
国立感染症研究所
米国疾病予防管理センター
WHO

香港かぜ

病原体 インフルエンザウイルス(A/H3N2亜型)
経緯 1968年7月頃 第1波香港で発生、日本にも7月末に上陸、秋にかけてアジア、欧米へと広がるが爆発的流行まではいかず
1969年冬 第2波、本格的な流行へ、全世界での推定死者数は100万人
※現在も季節性インフルエンザとして流行。連続的な変異を繰り返しながら毎年人類にダメージを与え続けている
情報元 内閣官房
厚生労働白書
国立感染症研究所
米国疾病予防管理センター
WHO

新型インフルエンザ

病原体 インフルエンザウイルス(A/H1N1)pdm09
経緯 2009年4月 メキシコとアメリカで発生したとWHOが発表
同年5月 日本国内で初の患者発生
同年6月 WHOがパンデミック宣言(フェーズ6へ引き上げ)
同年8月 日本国内での流行入り宣言
同年10月 ワクチン接種開始
2010年3月 厚労省、第一波の終息宣言
同年8月 WHOがパンデミック終息宣言
※パンデミックは終息するも、現在も季節性インフルエンザとして流行し続けている
情報元 内閣官房
厚生労働白書
国立感染症研究所
米国疾病予防管理センター
WHO

コレラ 経口感染症

病原体 病原体コレラ菌(細菌)
感染経路 感染経路汚染された水や食べ物の摂取
治療法 治療法大量に失われた水分と電解質の補給、重症の場合には抗生物質の投与予防法
予防法 流行地では頻繁に手洗いをし、生水や生ものを避ける。WHOでは経口ワクチンを推奨しているが、日本では未承認。
※一部医療機関では輸入ワクチンを接種可能経緯1871年 第1次パンデミック、インドのベンガル地方から世界中に広まった
経緯 1899年 第6次パンデミック 計6回のパンデミックにより、数百万人が死亡
1961年 第7次パンデミック インドネシアで発生後、1971年にアフリカ、1991年にアメリカ大陸へ。世界に広がり現在も流行中(エピデミック)、終息の気配なし
2010年以降 ハイチで大流行し、ドミニカ共和国やキューバに拡大
※現在も世界では毎年130万~400万人が感染していると推定されている。日本では、輸入症例が大半。輸入食品からの感染と推定される国内発症例もあり
情報元 厚生労働省
国立感染症研究所
厚生労働省検疫所FORTH
関西空港検疫所
東京都感染症情報センター
WHO

SARS(重症呼吸症候群)人畜共通感染症(動物由来感染症)と考えられている

病原体 SARSコロナウイルス(SARS-CoV)
感染経路 主に飛沫感染・接触(糞口)感染、空気感染の可能性もあり。動物が媒介する可能性が示唆されているが結論は出ていない
治療法 有効な根治療法は確立されておらず、対症療法が中心
予防法 ワクチンなし、患者の早期発見と隔離以外に有効な予防措置はなし
経緯 2002年11月 中国で初の患者発生。この症例はあとになってSARSと特定された。以降、インド以東のアジア、カナダを中心に世界各地での感染例報告。
2003年7月 WHO終息宣言
※日本国内での発生は免れたが、全世界で8096人が感染、774人が死亡(WHO発表
情報元 厚生労働白書
国立感染症研究所
厚生労働省検疫所FORTH
関西空港検疫所
米国疾病予防管理センター

MERS(中東呼吸器症候群)人畜共通感染症(動物由来感染症)

病原体 MERSコロナウイルス(MERS-CoV)
感染経路 未解明だが、ヒトコブラクダが上記ウイルスの保有宿主(感染源動物)だと考えられている。MERSが発生している中東地域でのラクダとの接触、ラクダの未加熱肉や未殺菌乳の摂取が感染リスクだと言われている。また、患者からの接触感染、飛沫感染と考えられる限定的なヒトーヒト感染例もあり
治療法 有効な根治療法は確立されておらず、対症療法が中心
予防法 ワクチンなし、手洗いなどの一般的な衛生対策に加え、流行地での動物(ヒトコブラクダなど)との接触や加熱不十分な食品(未加熱の乳や生肉など)の摂取を避けることなど
経緯 2012年9月 サウジアラビアで初めて確認される
2015年 韓国で感染拡大
2019年12月 サウジアラビア、カタールで感染者
※日本国内において未だ発生は免れているが、WHO発表によると2020年3月時点で全世界で2553人が感染、死者876人(主にアラビア半島諸国中心)
情報元 厚生労働省
国立感染症研究所
厚生労働省検疫所FORTH
関西空港検疫所
WHO

エボラウイルス病(エボラ出血熱)人畜共通感染症(動物由来感染症)

病原体 エボラウイルス
感染経路 野生動物(コウモリ、ヤマアラシ、霊長類など)からヒトに伝染、患者の体液などとの直接接触によりヒトーヒト感染
※発症前の感染者が感染源になることはほとんどない
治療法 有効な根治療法は確立されておらず、対症療法が中心
予防法 確立されたワクチンなし。流行地に行かない、野生動物に触れない・ 死体に近づかない ・加熱不十分の肉を食べない、など
経緯 1976年 スーダンとコンゴ民主共和国で同時期に発生
2014年3月 ギニアで集団発生。以降、リベリア、シエラレオネなど西アフリカ地域で大規模流行
2018年~ コンゴ民主共和国で再流行
2019年6月 ウガンダ共和国で感染確認
同年7月 WHO、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)宣言
情報元 厚生労働省
国立感染症研究所
厚生労働省検疫所FORTH
東京都感染症情報センター
WHO

編集後記

ウイルスが自然に消え去ったものもあるものの、これだけ医療が進歩しても人類が根絶に成功したのは天然痘のみという現実。人類が生きている限り、感染症は避けられないと言われている理由が少しわかった気がします。 頻繁に新興感染症が出現している背景には、開発による自然破壊など、人間の行動によって未知の病原体との遭遇の機会が増えたことも一因として考えられているようです。

また、地球温暖化の影響により感染症を媒介する動物の増加や流行地域の広域化の可能性も指摘されています。感染症は昔からあるとは言え、私たちの行動によって感染が拡大するものがあることを考えると、人類の生き方自体を問われているような気もしている今日この頃です。